スリップオンと私
草木も眠る丑三つ時、多少の風を部屋に流そうと開け放った窓からは
線路工事の音がカンカンブロロと響いて参ります。
雨にも負けず風にもまけず、この音は朝五時まで続きます。
外からそのやうな音がするかと思へば
先ほど上がった湿度120%の風呂場からは、
くたびれた換気扇がウニョンウニョンウニョンと
起動を嫌がる、やる気の無いよっこらせにも似た溜息と言いますか、
そんな音が鳴り響いており、最初何の音か分からず、
無駄に私の恐怖をかり立たせよりました。
そんな音の絶えない、
賑々しい部屋より御送りしますFRICTION APARTMENT。
私のコーナー第一回(前回はご挨拶までにという事にて)。
皆様如何御過ごしでしょうか。
さて、ありがたい事にこの様なサイトに参加させて頂く訳なのですが、
さてさてありがたい事に微妙に忙しくさせて頂いており、
まぁこれといって書く事が無い。
無いなりにも全裸で風呂場で湯船(どういう訳かユニットバスに頑張って湯をはっております。バス・トイレ別は儚い夢。)に浸かりながら考えましたところ、
時間も時間なので怖い話を一つ書いておこうかと。
それがタイトルにもございます、スリップオンと申す
至ってクラシカルなスニーカーのお話でございます。
スリップオン多々あれど、どこぞの殿様が申しました。
『スリップオンはヴァンズに限る』
そう、お話は無駄と分かりながらも皆様のご興味が無いと分かりながらも
私とヴァンズの馴れ初めまで遡ります。
私とヴァンズの馴れ初めは遥か昔、二年前に遡ります。
二年前のお誕生日。
何が欲しいかと問われたところ、全く何も思い付かず、
チェッカー柄のヴァンズsk8hiが欲しいと宣った事に始まります。
私、それまで色気付いた中高生からナイキという
舶来のシャレオツスニーカー一辺倒でして、
やれハラチだやれAIRMAX95だ、やれジョーダンだと
ハイテクノロジーでハイカラでハイデフ(©Xbox360)な物に傾倒しておった次第であります。
もちろん、その間には欧米でも『欧』の方の
アディダスというにも心酔しておった事もございますが。
とにかく、私の歩んで参りましたスニーカー生活に
ヴァンズという欧米でも『米』、(ナイキも『米』でございますが)
そして御足下のスケートというジャンルに足を通した事がございませんでした。
ヴァンズさんに御足下を初めて包んで頂いた感想は
言うまでも無く、気持ちよいの一点張りです。
あのクラシカルなボディのどこにこんなWE CAN DO、いや、
いい感じな履き心地を秘めておるんだと。
ヴァンズを履いておった当時の同僚にこっそりこんな良いものなんですなと
お話申し上げた事を思い出します。少し。
随分横道に逸れ続けております故、
お話を本題に戻します。
簡単に申し上げますと、とにかく良い物だと。
こんな良いものを何故受け流して来たのだと。
その後、sk8hiをもう一足買いまして
(それは和名で言いますところの首顔の絵が書かれたシリーズでございました。)
シンジケートなるものはさらに中敷までが改良されておりまして、
まぁ気持ちのいい事。
そして、運命の時が来たのです。
名古屋でのライブペイントを行った際、
急遽ペンキでペイントをする事に相成りまして。
演じるに当たってその日履いて来たナイキを汚す訳にはいかんと。
そこでお手軽に入手したるはヴァンズのスリップオン。
どこぞの殿様の言葉を思い出しながら買い求めた次第です。
その日のパフォーマンスはほどほどに調子が良く、
後のお酒の場も大変気持ち良く過ごさせて頂きました。
そして、翌日。
東京に仕事を残しておりましたので、
早めに実家を発つ事にしました。
小雨の降る六月の事でした。多少小寒い日でしたでしょうか。
前日に痛くそのスリップオンを気に入りました故
意気揚々とそのスリップオンを履き
あおなみ線に揺られておりました。
行きも帰りも諸経費を削る為に高速バスだ。
名古屋駅へ向かう。
通勤ラッシュ。
多くの人が傘を持っている。
名古屋駅へ着いた。
階段を下ってバスターミナルへ向かう。
階段を踏み出したその瞬間
私の視線は急激に低くなり、前をイソイソと階段を降りていたサラリーマンのケツが目の前にあり、私のお尻には階段を降りていた以上あり得ない話ですが階段の感触があり、
スリップオンを履いていた足先にはそのサラリーマンの足の感触が伝わって来た訳です。
横に居たはずの女子高生から『だいじょうぶですかぁ〜!?』の多少うわずった声。
詰まる所、スッ転んでおる訳です。
階段で。
ケツで滑ってるんです。
階段を。
恐ろしい。
恐ろしかった。
周囲のご迷惑をおかけした方々に
目線を合わせずにすいませんを連発して
後ろを振り返らずに改札を通り抜けました。
もちろん半笑いで。
顔全体が笑いの様子として半分笑ってるのでは無く、
顔半分が笑った状態です。
これ今思いますに、恐らくですが引きつった顔です。
あなおそろしや。
その後、当時は恥ずかし過ぎて誰にも話せてませんでしたが、
もういいやって思って最近話してます。
ネタでございます。
そうやってネタにしたら勘づいたのでしょうね。
スリップオン様。
先々週の日曜日、これまた小雨の降る夜の事でございました。
何かのご縁で久しぶりに再会した皆々様と多少お酒なんぞを飲みまして、
青山から歩いて自宅へ戻る帰り道の事です。
電話をしておりました。
車でも運転しながらの通話は禁じられておりますね。
それは集中力が分散するからでございます。
そう、私はその状況が小雨で、私の足下が例の如くスリップオン、
さらにはもう間もなく迫り来る、車が段差を登る為の鉄板。
つまり役満状態な事をすっかり意識して居なかった訳であります。
言うまでもございません。
膝を強打です。
電話先の仲間は例の如く『大丈夫ですかぁ!?』のうわずった声。
ここで全ての状況を把握する訳です。
翌日からはお皿割っちゃったんじゃねぇのな毎日です。
あな恐ろしや。
いや、結果割れてないのですが。
ここ一週間秋雨。
豪雨ならずとも小雨。
気温も下がり始め、
上着を一枚羽織る。
両足にスリップオン。
どんとこい。


